Googleは、悪評サイトを検索結果の上位に出さないようにアルゴリズムを改良しました。
そのときの選択肢の候補の1つとして、“Sentiment Analysis”(センチメント分析・感情分析)が挙げられていました。
検索における感情分析というのは、書き手が取り扱っているトピックに対する感情・心情を調べて検索結果に反映させることです。
今回のケースでは、発端となったDecorMyEyesというサイトはさまざまなレビューサイトで言及されました。
しかし、それは「良いですよ、おすすめですよ」のようなポジティブなレビューではなく、「最悪だ、詐欺だ」のようなネガティブなレビューばかりです。
決して良い評価を与えて言及しているわけではないのです。
感情としては「嫌」っているわけですね。
ウェブの世界では、「言及」は時として「リンク」という形に姿を変えます。
つまり、悪いレビューを集めたDecorMyEyesは、リンクを集めることになってしまいます。
リンクを集めて上位表示すれば訪問ユーザーが増えるだろうし、一般ユーザーのなかには「上位表示しているサイト = 検索エンジンが勧めているサイト」と思い込んでいるケースもあるようです。
「それならば悪い評判ばかり得ているサイトは順位が低くなるようにすればいい。」、このような理論をたてることができます(逆に考えれば、評判の良いサイトは順位を上げる)。
こうした感情分析をGoogleは採用することを検討したのです。
しかしながら結果的に見送りました。
まず理由の1つは、感情的にネガティブな言及を締め出すことはユーザーのメリットになるとは限らないからです。
たとえば選挙の立候補者についての情報を調べるときに、その人を支持する声とその理由、支持しない声とその理由を知り、両方の意見を参考することにはおおいに価値があります。
ネガティブなコメントを受けているサイトを検索から弾き出すということは、賛否が分かれるような論争の情報を得にくくするかもしれません。
Amazonで本を買うときに、良いレビューも悪いレビューもどちらも見ますよね。
悪いレビューがあったとしても、自分にとっては問題にならないかもしれないし、問題になったとしても事前に知っておくことで対処できるかもしれません。
マイナスな評価がユーザーの役に立つこともあるのです。
また、どれがポジティブでどれがネガティブな感情を含んでいるかはGoogleが基本的に判断することになるでしょう。
Googleが「良い・悪い」を決めることになってしまいます。
菅政権を支持する人(サイト)もいれば支持しない人(サイト)もいます。
どちらも情報として価値があります。
優劣はありません。
支持・不支持のどちらに立つかを決めることをGoogleは絶対に望まないでしょう。
感情をランキング付けの指標にするということは、より適切な結果を返すことには必ずしも繋がらないのです。
そもそも感情分析をアルゴリズムに取り入れたとしても、今回のDecorMyEyesのケースには対応できませんでした。
被害にあった女性がDecorMyEyesの評判を調べたレビューサイトの1つ、Get SatisfactionはDecorMyEyesにリンクを張っていましたが、rel=”nofollow”属性が付いていました。
つまり、ランキングを上げる効果はなかったのです。
さらに、リンクを張ることすらなくユーザーレビューを単に載せているサイトが大半でした。
DecorMyEyesのサイトオーナーは悪い評判を広めることでリンクを集める悪知恵を働かせたのですが、ランキングを上げる被リンク獲得には成功していなかったようです。
レビューサイトで意図的に悪評を書きこませることは上位表示には役立っていませんでした。
したがって感情分析をアルゴリズムに組み込んだとしても、もともと上位表示の要因ではなかったので検索順位を下げる効果は期待できなかったわけです。
それどころか、この事件を報じたNew York TimesやBloombergのような大手のメディアサイトがDecorMyEyesにGoogleにいくらかでも評価を与えてしまうリンクを張っていたというオチまでついています。
以上のような理由があって、今回の悪評サイトのランキングを下げるアルゴリズム変更に感情分析を取り入れることをGoogleはしませんでした。
では、Googleは感情分析をアルゴリズムにまったく組み込んでいないのでしょうか?
感情もそうですし、皮肉やたとえ話、行間に込められた言葉には出ないメッセージなどを読み取るコンピュータの能力は人間にはとうてい及ばないはずです(人間でも分かってない人はいますけどねw)。
酸っぱいミカンをもらって「酸味がきいてますね」とにこやかな表情とともに言葉では感想を伝えて、心のなかでは「酸っぱくて食えねーよ!」と叫ぶことがあるかもしれません。
「つまらないものですが」と言って、本当につまらないものを贈る人はいません。
コンピュータにとっては言葉の裏に秘められた意味を理解するのは非常に難しいことでしょう。
しかしそこはさすがにGoogleです、感情分析の研究を着実に進めているようです。
So far we have not found an effective way to significantly improve search using sentiment analysis. Of course, we will continue trying.
“センチメント分析を用いて検索を著しく改善する効果的な方法は今のところ見つかっていない。もちろん取り組みは続けていく。”
GoogleのMatt Cutts氏は最近受けたインタビューのなかで「Googleはセンチメント分析をやっているのか?」という質問に対して、「やっている。利用している場所があり得るだろう。」と答えています。
本格的に、ということではないと思われますが何らかの形で導入もしくはテストを行っている可能性もおおいに考えられます。
SEMリサーチで渡辺さんが次のようにコメントしています。
ただし、検索業界の専門家たちは、たとえばGoogleプレイスはランキングアルゴリズムにユーザレビューの件数や点数を組み込んでいると指摘している。今回の”新しい検索アルゴリズム”も、従来のランキング計算にレビューの要素を組み込んで、一定の閾値を超えるサイトのスコアを修正するアプローチを行っていると推定される。先日明らかになった Twitterのユーザオーソリテなども例示するように、ウェブの進化にあわせてGoogleは「ソーシャルシグナル」をランキングに組み込み始めるようになったことを示す事例となるだろう。
つい最近導入されたGoogle おみせメモ(英語名:HotPot)は、Googleアカウントにログインしているときに限りますが、自分や友だちの評価がオーガニック検索に出てるローカル結果をパーソナライズするのに影響を与えることが明らかになっています。
広い意味で捉えれば感情分析に入りそうです。
感情分析をどのように検索結果に反映させるかはまだ最適なしくみできあがっていないようですが、少なくとも感情分析自体は、範囲は限定されているのかもしれませんが、できるようになっているみたいですね。
感情分析を相手にしたSEOに取り組まなければならない時が近付いているとも言えそうです。