[レベル: 上級]
米カリフォルニア州マウンテンビューで5月17日〜19日に開催された Google I/O 2017 に参加してきました。
検索関連の最新情報として、楽天レシピと Twitter の PWA 成功事例と、AMP の EC サイト対応への取り組み、そして求人検索の Google for Jobs を先週はレポートしました。
この記事では、検索とは直接の関連はないものの、SEO にも通じる部分があるとして、僕がものすごくインパクトを受けたセッションの内容を紹介します。
単なるセッションレポートにとどめることなく、僕が感じたことも含めてアレンジしつつ、次世代の SEO とも呼びたくなる新しいテクノロジーを体験してみたいと思います。
取り上げるセッションのタイトルは、Getting Your Assistant App Discovered です。
AI を採用したデジタルアシスタントの Google Assistant において、開発者が公開したアプリをどのように発見させるかがテーマになります。
では行ってみましょう!
Actions on Google とは
まず前提知識として、Actions on Google(アクションズ・オン・グーグル)について簡単に説明します。
Google Assistant は人工知能を使った対話型の Chatbot(チャットボット)です。
さまざまなことを会話形式で実行可能です。
Actions on Google という技術を利用すると、アプリ開発者は、自分が作ったアプリを Google Assistant と連携させることができます。
Google Assistant を介して独自のサービスをユーザーに提供できます。
簡単に言うと、つまり Google Assistant の中で自分のアプリを動かせるのです。
Actions on Google を実装したアプリは Google Assistant の中で Google Assistantと同じように対話型でユーザーとやりとりできます。
もっと鮮明なイメージをつかむために、Actions on Google を実装した具体的なアプリを見てみましょう。
こちらは、Actions on Google に対応している Google I/O のアプリです。
- Google Assistant を起動して“I want to talk to Google I/O 17.”(Google I/O 17 と話したい)と話しかける
- “Sure, here’s Google I/O 17.“(承知しました。こちらが Google I/O です)と返答してくる
- Google I/O アプリが呼び出され、Google Assistant は引っ込む(アイコンも、Google Assistant のものから Google I/O のものへと切り替わる)
- “I’m one of Googlers who ran IO this year……”(私は、今年 I/O を運営した Google 社員の1人です……)と、ユーザーとの受け答えをGoogle I/O アプリが開始する
会場の場所やセッションスケジュールなどカンファレンスに関するさまざまな情報を I/O アプリが教えてくれます。
もちろんすべて会話形の音声入力で実行できます(ちょうど I/O の最中にタイプでの文字入力も可能になりました)。
こちらは、Wine Guide(ワイン・ガイド)というアプリです。
料理に合うワインを勧めてくれます。
こちらは、Fitstar というフィットネスアプリです。
エクササイズのパーソナルトレーナーの役割を果たしてくれます。
アプリ開発者は、人工知能を使った技術や対話可能な機能を自分で開発する必要はありません。
上の例で見たように、Google Assistant の力を借りて、ユーザーが普段使う会話形式の言葉で、賢いパーソナルアシスタントを簡単に公開できるのです。
Actions on Google を詳しく知りたいときはこちらを参照してくだい。
- 公式ブログでの日本語解説: Actions on Google を使った開発を始めてみましょう – Google Developers Japan
- 公式ウェブサイト: Actions on Google ― Google Developers
Actions on Google アプリの発見
Actions on Google を実装したアプリをどのようにユーザーに見つけてもらうかが、この記事でレポートする Google I/O のセッションのテーマです。
それぞれのアプリは、Google Assistant の公式ウェブサイトで公開されます。Google I/O アプリの個別ページもきちんとあります。
しかし、このセッションでは、ウェブではなくアプリの中、もっと限定して言えば Google Assistant の中で僕たちが作った Actions on Google 対応アプリをユーザーにどのように発見してもらうかに焦点が当てられました。
アプリを公開しただけでは、誰にも使ってもらません。
ウェブサイトと同じです。
ウェブサイトも公開しただけでは、多くのユーザーにはなかなか訪問してもらえません。
僕たちはどうやって自分のサイトへの訪問を増やしているかを考えてみてください。
たとえば、今ならソーシャル、ずっと昔ならYahoo! カテゴリ、そして昔も今も検索エンジンです。
このように、Actions on Google アプリもさまざまな手段でユーザーに発見されて初めて利用してもらえるのです。
Actions on Google を実装したアプリを Google Assistant の中で発見してもらう手段を、セッションスピーカーは3つ紹介しました。
- Explicit Triggering
- Implicit Triggering
- Assistant Directory
順に説明します。
1. Explicit Triggering
Explicit Triggering(エクスプリシット・トリガリング) は「明示的な起動」とでも日本語で表現しましょうか。
アプリを直接指定して呼び出すやり方です。
検索でいうなら、アクセスしたいサイトのサイト名を検索してお目当てのサイトを見つけるパターンです。
「Navigational(ナビゲーショナル)」や 「Go(ゴー)」と呼ばれる種類のクエリに相当します。
あるいは、ブックマークからのアクセスやURLを直接打ち込むやり方にも似ています。
具体的には、“Talk to fitstar”(フィットスターと話す) のように Fitstar アプリの名前を含めて Google Assistant に話すと、Fitstar が呼び出されます。
Fitstar は先ほど例にも出したフィットネスアプリです。
Google Assistant の中で使いたいアプリをユーザーが知っていれば、アプリの名前で呼び出してもらえます。
アプリを呼び出すのに使える Explicit Triggering のフレーズは、Assistant Directory(後ほど説明)に記載されています。
“Talk to Fitstar” 以外にも次のようなフレーズで呼び出しが可能です。
- Can I talk to Fitster
- I want to talk ot Fitstar
- At Fitstar
2. Implicit Triggering
Explicit Triggering と対称をなすのが、Implicit Triggering(インプリシット・トリガリング)です。
直訳すれば「暗黙的な起動」になります。
アプリの名前は明示的には言葉に現れません。
しかしユーザーが話したことの意図に応じて、最も適切だとGoogle Assistant が判断したアプリが呼び出されます。
ユーザーが発した言葉に暗に含まれる意図を解釈して、Google Assistant がアプリを選ぶのです。
まさしく、僕たちが一生懸命に取り組んでいる SEO です。
サイト名もURLも含まれない、さまざまなクエリで検索エンジンからアクセスがあります(そしてそういった検索トラフィックを獲得するために日々奮闘していますね!)。
検索の場合は、Google 検索のアルゴリズムが、クエリに最も関連性が高いと判断したウェブページを上位表示します。
Google Assistant も検索エンジンと同じことを実行します。
“Give me a workout”(運動したい) と Google Assistant に話します。
すると、“Sure, For that you might like talking to Fitstar. Wanna give it a try?”(承知しました。それなら、Fitstar はいかがでしょう。試してみますか?)と、1人でもエクササイズができる Fitstar アプリをオススメしてきます。
“Yes” と答えると Fitstar アプリが起動します。
僕が試した場合では、Fitstar だけを Google Assistant は提案してきました。
しかし、複数のアプリを提案するように今取り組んでいるとのことです。
Fitstar のほかにもう1つ、5 minute plank というフィットネスアプリも提案するデモがセッションでは紹介されました。
2つのアプリを提示して、どちらを試してみたいかを尋ねてきます。
僕には、さながら検索結果の上位表示争奪戦に見えます。(笑)
なお Implicit Triggering に使われるアクションフレーズは、aciton_package.json
ファイルで設定できます。
Actions on Google コンソールから、api.ai を利用して簡単に設定することもできます。
3. Assistant Directory
Explicit Triggering と Implicit Triggering 以外のもう1つの Actions on Google 対応のアプリを見つける手段は、ディレクトリです。
Actions on Google 対応アプリが掲載されるディレクトリが、Google I/O の開催に合わせて公開されました。
Google Assistant の画面の右上にあるアイコンをタップします(ところでこれは何を意味したアイコンでしょう?)。
Google Assistant 対応アプリが掲載されたディレクトリにアクセスできます。
ニュース/雑誌や健康/運動、飲食などのカテゴリごとにアプリが整頓されています。
健康/運動の「HEALTH & FITNESS」カテゴリの中に Fitstar が見えます。
タップすると、詳細を見ることができます。
ちなみに、ここの写真と(アクションフレーズに関連した)説明文は Implicit Triggering の際のランキング要因としても利用されるんだそうです。
「ランキング要因」と聞くと無意識に反応してしまいます。;)
ディレクトリは、掲載アプリが少ないうちはいいですが、数が多くなってくると探すのが大変になってきそうです。
ウェブサイトも、インターネットの黎明期は米 Yahoo! Directory や DMOZ が重宝されました。
しかし、利用者の減少にともないどちらも姿を消しています(そう考えると、日本の Yahoo! カテゴリがまだまだ健在なのはすばらしいことに思えます)。
検索エンジン最適化 vs. Google Assistant 最適化
以上ここまでで紹介した、Explicit Triggering と Implicit Triggering そして Assistant Directory の3つが、Actions on Google 対応アプリを Google Assistant の中で発見させる方法です。
このブログは SEO ブログです。
にも関わらず、おおよそ SEO とは関係なさそうなアプリ関連のこのセッションをレポートしたのには2つの大きな理由があります。
- Google Assistant がモバイルの次の大きな流れになるから
- SEO に通じるところがあるから
Google Assistant は AI を採用したテクノロジーです。
Google I/O のキーノートスピーチで、Googleの CEO である Sunder Pichai(スンダー・ピチャイ)氏は、モバイルファーストから AI ファーストへと自分たちが大きく舵を切ったことを宣言しました。
Google Assistant は1億のデバイスに現在搭載されているとのことです。
直前の噂どおりに、iOS 版の Google Assistant 単独アプリが I/O で発表されました。
また Google Assistant の SDK が公開されています。
SDK を利用すれば、サードパーティのハードウェアに Google Assistant を搭載することが可能です。
Google Assistant 搭載デバイスはさらに増えるでしょう
Chatbot とも呼ばれる AI を採用した対話型デジタルアシスタントの覇者を狙っているのは Google Assistant だけではありません。
Amazon の Alexa(搭載したホームデバイスが Echo)に、Apple の Siri、Microsoft の Cortana と競争が激化しています。
スマートフォンがそうであったように、デジタルアシスタントは間違いなく大変革を起こすだろうと僕は確信しています。
とは言え残念なことに、Google Assistant はまだ日本語には対応していません(ただし Allo アプリのなかでは日本語で利用可能)。
I/O のキーノートスピーチでは、Google Assistant を搭載したホームデバイスの Google Home は夏以降に日本でも発売予定とのことでした。
Android スマホでは対応していれば、Google Assistant は間もなく日本語でも使えるようになりそうです。(公式ブログの発表では Google Home は今年後半とのこと。来年1月との情報もあり)。
まだしばらくは先の話といえば先の話です。
でもそう遠くない将来の話とも考えます。
【UPDATE】
Google Assistant が日本語でも利用可能になりました。
さて、もう1つの「SEO にも通じるところがある」に移りましょう。
説明の中のあちらこちらでも触れたように、Implicit Triggering で Google Assistant に推薦されたり、ランキング要因だったりと露出を高めるという点で SEO と共通する点がたくさんあります。
どのアプリをどの順番で提案するかは、ウェブ検索のようにアルゴリズムが判断し、最適なアルゴリズムを開発できるように取り組んでいるんだそうです。
また、Google 検索や Google マップなどで使われるウェブサイトのシグナルも考慮に入れられるとスピーカーは語っていました。
まだ試行錯誤の段階のようです。
そして、次のようにもスピーカーは強調していました。
ユーザーの意図にマッチした、品質が高いアプリを提示することを目指している。ほかには、コンテキストやユーザーが好むこと(設定)も関係してくる。
Google Assistant アプリを公開する際には、ユーザーの本当に手助けになるアプリを作ることが重要
ウェブサイトとまったく共通です。:)
ところで、Google Assistant をユーザーが利用する状況においては、ウェブとアプリの競争が発生することも予想されます。
“Give me a workout”(運動したい)で、Fitstar を勧めてくる例を見ました。
“Give me a workout” をウェブ検索すれば当然、ウェブページ(や動画)が検索結果に出てきます。
しかし、Google Assistant はウェブではなくアプリを提案してきました。
このように、Google Assistant に要求する内容によっては、ウェブではなくアプリが提示されるのです。
Actions on Google に対応したアプリが増えてくれば、ウェブの代わりにアプリを Google Assistant が優先して提案してくることさえ考えられます。
SEO と関係ないとは言わずに、Google Assistant の普及と Actions on Google に対応したアプリの拡大にはぜひ注目していきたいものです。
ウェブのようにアプリが誰にでも簡単に発行できる世の中になれば、ひょっとしたら、Google Assistant Optimization(グーグルアシスタント最適化)、通称 GAO なんていう用語が出現するかもしれませんよ。(笑)