[レベル: 上級]
今日も、SMX Munich 2016のセッションをレポートします。
セッションテーマはまたまたモバイルです。
しかしGoogleのモバイル検索ではありません
Appleのモバイル検索です。
セッションスピーカーのMobileMoxieのEmily Grossman(エミリー・グロスマン)氏は、次のような前振りからセッションを始めました。
このカンファレンスでは、Yahoo!やBingについて話す人もいなくはないが、ほとんどの人がGoogleについて話している。しかし、このセッションではAppleについて話す。
AppleのモバイルSEOとはいったいどんなものなのでしょうか?
なぜAppleなのか?
iPhoneを主軸に、Appleの売り上げは伸びている。ただし、Appleはハードウェアだけの企業ではない。ソフトウェアでも市場に進出している。たとえば、iTunesやApp Store。これらはGoogleの脅威となりうる。
さらに、Appleは検索の分野にも進出してきた。3つの検索プロダクトがある。
- Spotlight(スポットライト)
- Siri(シリ)
- Safari(サファリ)
Spotlight
iOS内とウェブを横断する検索システム
Siri
音声アシスタント
Safari
iOS標準のブラウザだが、オートコンプリートではGoogle以外の結果もサジェストする。
[鈴木注: この記事では、SpotlightとSiri、Safariの3つの検索を合わせて、「Apple検索」と呼びます]。
Appleのユーザーはとても忠実なので、Apple製品を使い続ける。
[鈴木注: MicrosoftのWindows 10のイベントで、イベント参加者の多くがWindowsのラップトップではなくMacBookを使っている写真を見せて、会場爆笑]
特にモバイルではこの傾向が顕著。iOSユーザーは、Safariから別のブラウザに乗り換えようとしない。モバイルブラウザシェアの50%以上はSafari。
[鈴木注: 2014年2月のデータで、やや古い気がする。現在はAndroid製ブラウザのシェアがもっと伸びているはず]
SiriとSafari、Spotlightを使って、Appleは次のようなことを目論んでいる。
- 検索市場に参入しようとしている ―― 検索クエリの予測、検索エンジンで検索を実行する前にApple独自の検索結果を表示する。
- Googleを締め出そうとしている ―― 検索結果のデータはBingから取得している。Googleを介さずにウェブサイトに直接送り込む。
- ウェブを締め出そうとしている ―― 地図やメール、連絡先、そして特にアプリをサジェストしてくる。
Appleが起こしているこの流れに乗ればトラフィックを伸ばすチャンスになる。それに、iOSユーザーのほうが利益率が高いというデータも出ている。
検索市場への参入
Apple検索では、ユーザーが検索を実行する前に、クエリや検索結果を予測する。
Safariで [united] と検索ボックスに入力すると “Suggested Website” として、United Airlines(ユナイテッド航空)の公式ウェブサイトをサジェストしてくる。Googleのオートコンプリートのサジェストは、その下に出てくる。
Spotlight検索では、公式サイトやWikipediaのほか、ユナイテッド航空に関係するメールが結果に出てくる。
オレンジの枠に囲まれたのは、Apple検索によるサジェスト。いちばん上に表示され、アイコンが付く。一方、Googleのサジェストはその後。
Googleの締め出し
Apple検索は、マップでの場所やメール、連絡先、アプリを検索結果として表示する。
Siriは、連絡先とアプリ、Appleマップを最初にサジェストする(iOS 9)。
Apple マップ
場所に関係するサジェストは、GoogleマップからではなくAppleマップから選ばれる。
赤色の矢印の先は、どれもiOSにプリインストールされている「マップ」からの結果。
経路案内もAppleマップから作られる。
ウェブ検索の結果がスクリーンに入っていない点にも気付くべき。マップの結果の下に出ている。
Appleマップには必ず登録しておくこと。あるガソリンスタンドはAppleマップに登録していなかったために、iOS 9のリリース後にアクセスがなくなってしまった。
Appleマップには、Maps Connect から登録できる。
メール
Spotlight検索はメールもサジェストする。
Spotlight検索でのメールを目立たせるコツ:
- 重要なキーワードを件名に書く、先頭の方がいい
- 新しいメールのほうが上に出てくる
- モバイル(iPhone)場合は、端末に保存されているメールだけが対象
YouTube
YouTube動画もサジェスト結果に出てくる。
サジェスト結果がYouTube動画ばかりになることもある。
iTunes&App Store
iTunesのコンテンツもサジェストに出てくる ―― iTunesストアでのコンテンツ発行者は意識しておいたほうがいい。Appleストアのコミッションは今は90億ドル。iPodが公開された年の収益よりも多い。
App Storeのアプリもサジェストに出てくる。「Popular Apps Nearby」というラベルで、近くのユーザーに人気があるアプリが出てくることもある。
アプリコンテンツ
アプリではなく、アプリのコンテンツ(ディープリンク)もiOS 9からは出てくる。対応するウェブページを持たない、アプリだけ公開しているコンテンツも対象になる。ディープリンクを検索結果に表示するには対応するウェブページが今のところは必要なGoogleのApp Indexingとは一線を画す。
下のキャプチャでは、左はYelpのアプリコンテンツでサジェスト結果が埋まっている。右は、TripAdvisorのアプリコンテンツでサジェスト結果がほぼ埋まっている。
Appleのアプリコンテンツのインデックス
Apple検索(Spotlight・Siri・Safari)のサジェスト用データは2種類のインデックスから構成されている。
- デバイス インデックス
- クラウド インデックス
デバイスインデックスは、その端末に保存されるインデックス。プライベートなインデックスでその端末でだけサジェストに利用される。
一方、クラウドインデックスはAppleのサーバーに保存される。パブリックなインデックスで、他のユーザー(端末)のサジェストにも利用される。
Apple検索にインデックスさせるには、3つの実装手段がある。
- Core Spotlight
- NSUserActivity
- ウェブページのマークアップ
Core Spotlight はプライベートインデックス用に利用する。
NSUserActivity はプライベートインデックスとクラウドインデックスの両方に利用できる。
ウェブページのマークアップはクラウドインデックス用に利用する。
Core Spotlight と NSUserActivity では、アプリに対応するウェブページは不要。ウェブページのマークアップではウェブページが必要。
Core Spotlight と NSUserActivity はアプリに必要なコードを記述する。ウェブページのマークアップは、ウェブページに構造化データを記述する。
メールのような個人的な情報は、Core Spotlightを使ってプライベートインデックスに格納せるといい。
ウェブに一般公開しているウェブサイトであれば、マークアップすればApple検索のサジェストに出てくる可能性がある。
ウェブページのマークアップには次を利用できる。
- Twitter Cards
- AppLinks
- Smart App Banners
- schema.org
NSUserActivity は、プライベートにするかクラウドにするかを設定できる。その端末でだけ利用させたいのであればプライベートインデックスに格納すればいいし、他のユーザーのサジェストにも表示させたいならクラウドインデックスに格納する。
NSUserActivityを実装したアプリは、ユーザーの利用状況がAppleに記録される。ユーザーのエンゲージメント(利用時間やいくつのコンテンツを利用したかなど)が高いアプリは、iOS 9 のSpotlightとSiriのサジェスト結果の上位に出現しやすくなる。
Spotlightにサジェストされるディープリンクのランキング要因
ポジティブに働くランキング要因
- アプリのインストール状況(インストールしているかいないか)
- そのユーザー個人のアプリのエンゲージメント
- 全ユーザーのアプリのエンゲージメント
- アプリ結果のクリック率
- キーワードとアプリの名称
- ウェブページの構造化データ
- アプリIDの正規化
- ウェブページの強さ・人気
ネガティブに働くランキング要因要因
- 低いエンゲージメント
- 過度なインデックス
- 検索結果へのすぐの直帰
- キーワードの詰め込み
- インタースティシャル
- ApplebotのJavaScriptへのクロールをブロックしている
まとめ
ここまで見てきたように、Google検索だけではなく、Apple検索のサジェストに表示させる施策もこれからは考えていくべき。
以上です。
Googleばかりに意識がいってしまいますが、Apple独自のモバイル検索を今後は無視できなくなるかもしれません。
特にiPhoneユーザーが多い日本ではなおさらです。
ですが、僕がフォロワーやメルマガ読者にアンケートを取った限りでは、Spotlight検索を多少でも使っているiOSユーザーはごくごくわずかでした。
日常的にSiriを使っているユーザーもそんなに多くはないんじゃないかと推測します。
そう考えると、差し迫った脅威ではないのかなとも感じます。
ただ、Safariのアドレスバーで検索するユーザーは普通にいそうです。
SpotlightやSiriの利用者が徐々に増えてくることだって考えられます。
完全に無視するのは危険かもしれません。
アンテナだけでも張っておきましょう。
レポート記事では軽く触れるにとどめましたが、Core Spotlight や NSUserActivity などAppleのアプリインデックスの技術的な仕組みについてもエミリーさんは、詳しく解説しました。
iOSのアプリを公開しているなら知っておいて損はないと思います。
興味がある人はAppleの公式ドキュメントで調べてください。
Apple検索でアプリの露出機会やエンゲージメントを増やすことができるかもしれません。
エミリーさんは、モバイルのエキスパートで本当によく知っています(昨日レポートしたセッションのスピーカーのシンディさんと同じ会社のひと)。
2月にシアトルで参加したMozCon Localでセッション後に話をさせてもらって、今回も彼女の3つのセッションを聞いて、わからなかったところや疑問を抱いたところをいろいろ教えてもらいました。
いろいろなカンファレンスにエミリーさんは登壇するので、セッションを聴く機会がまたあると思います。
次はどんな話が聞けるのか今から楽しみです。
これで、ブログで公開するSMX Munich 2016のレポートは終わりです(社内向けに作成したレポートの一部をブログ記事として公開しました)。
セッションレポート記事の一覧は次のとおりです。