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生成 AI の台頭により、検索行動が変化しています。
Statista と Semrush .Trends のレポートによると、生成 AI の市場規模は 2024 年に 670 億ドルに達し、2030 年までに年平均 24.4% の成長が見込まれています。
こうした変化はデジタルマーケティングや検索エンジンのトラフィック分布に影響を及ぼしています。
そこで Semrush は、8,000 万件のクリックストリームデータを分析して ChatGPT 検索におけるユーザーの行動と、それがデジタルマーケティングに与える影響を考察しました。
この記事では、その調査の主要点をまとめます。
調査方法
Semrush は、2024 年 7 月から 11 月までのグローバルなクリックストリームデータ 8,000 万件を分析し、ChatGPT ユーザーの利用形態を調査しました。
主な分析対象は次のとおりです。
- ChatGPT に入力されたクエリの種類
- ChatGPT とのやり取り後のユーザーのナビゲーション行動
- ChatGPT のウェブ検索機能のオン/オフが行動に与える影響
- Google との検索行動の違い
また、クリックストリームデータを活用し、ChatGPT と Google のユーザー層の比較も行いました。
トラフィック送出元としての ChatGPT の成長
ChatGPT がウェブトラフィックを送客する役割が急速に拡大しています。
- 2024 年 7 月:ChatGPT 経由でのトラフィックは 1 日あたり 1 万未満のユニークドメインに送られていた
- 2024 年 11 月:3 万以上のユニークドメインへと増加
- 2024 年 8 月に急増し、10 月 31 日の ChatGPT 検索機能の正式リリース前にすでに利用が拡大していた
ChatGPT トラフィックの増加傾向は、検索機能が強化される前から ChatGPT をコンテンツ発見ツールとしてユーザーが活用していたことを示唆しています。
モードによる違い
ChatGPT は現在、次の 2 つのモードで動作します。
- 検索機能 OFF(デフォルト):内部知識のみを使用し、ウェブ検索は行わない
- 検索機能 ON:リアルタイムのウェブデータを取得する
検索機能 ON vs. OFF
- 54% のクエリは検索 OFF で処理
- 46% のクエリが検索 ON で利用
大きな差ではありませんが、半分以上の利用はウェブ検索機能 OFF でした。
📝すずきメモ:ChatGPT search は、2024 年 10 月 31 日のリリース当初は Plus ユーザーと Team ユーザー、ウェイトリスト登録ユーザーに公開されました。無料ユーザーが利用可能になったのが 12 月半ばです(ただし、ログイン必要)。非ログインユーザーも利用できるようになったのは、つい先日です。調査期間中はウェブ検索を利用できないユーザーが多かったせいもあるのかなと思います。
クエリの長さの違い
また、クエリの長さに違いが見られました。
- 検索機能 OFF 時:平均 23 単語の長いクエリ(最大 2,717 語)
- 検索機能 ON 時:平均 4.2 単語の短いクエリ(最大 301 語)
検索機能をオンにするとプロンプトは簡潔になり、従来の検索エンジンのクエリに近い形になりました。
検索は、会話調ではなく単語・単語で実行するという “メンタルモデル” が無意識に働いているせいでしょうか?
検索意図の分布
従来の検索エンジンでは次の 4 カテゴリに検索意図をおおまかに分類できました。
- ナビゲーショナル(特定のサイトを探す)
- インフォメーショナル(情報を調べる)
- コマーシャル(商品・サービスを比較検討する)
- トランザクショナル(購入や申し込みを行う)
しかし、ChatGPT のクエリには新しい検索意図が見られました。
- ChatGPT のクエリの 30% のみが従来の検索意図に該当
- 70% のクエリは AI と直接対話する新しいタイプのクエリで、問題解決、ブレインストーミング、探索的な質問が中心
Google vs. ChatGPT の検索意図
- Google 検索はナビゲーショナル意図が強い
- ChatGPT のクエリはインフォメーショナル意図が多く、特に検索機能 OFF 時に顕著
- 検索機能を ON にすると、Google の検索パターンに近づき、ナビゲーショナル、コマーシャル、トランザクショナル検索が増加
ChatGPT の 30% の既存の検索意図のなかでは、情報収集の割合が 52.2% と高く、Google の 49.6% を上回りました。
一方で、ナビゲーショナルの割合は Google (36.4%) の方が ChatGPT (34.2%) より高い傾向にありました。
また、ChatGPT の検索機能をオンにすると、ナビゲーショナル・商業・取引系の検索が増え、Google の検索意図により近い分布になりました。
新しい検索意図カテゴリ
ChatGPT は、次のような創造的・タスクベースの検索意図を生み出しています。
- ブレインストーミング
- 画像分析
- コンテンツ生成(要約、計画、アドバイスの提供)
この新しい検索行動は SEO やデジタルマーケティング戦略に影響を与え、AI 主導の検索に最適化する必要がでてきそうです。
ウェブトラフィックの分布:恩恵を受けそうな業界
特定の業界のウェブトラフィックを ChatGPT は増加させています。
ChatGPT 経由でトラフィックを受けた 1 万以上のドメインを分析たところ、次のような結果になりました。
- オンラインサービス:1,000 万以上のセッション
- 教育・遠隔学習:900 万以上のセッション
- 情報技術・ソフトウェア開発:780 万セッション
- 小売:190 万セッション
- 金融:160 万セッション
- ヘルスケア:150 万セッション
特に教育・研究・技術関連のサイトが高いトラフィック増加を記録し、ChatGPT が知識探索に活用されていることが分かります。
Google よりも多くのトラフィックを ChatGPT から獲得したドメイン
- AI & テクノロジープラットフォーム:OpenAI 関連ドメイン(oaiusercontent.com など)は、Google より 14 倍多くの ChatGPT トラフィックを獲得
- 教育・学術系サイト:研究出版(Springer、MDPI、WHO)や学習プラットフォーム(Blackboard、CUNY)は、Bing を上回る ChatGPT トラフィックを獲得
ユーザー数比較
2024 年 12 月時点の Google と ChatGPT のユニークユーザー数の比較データです。
- Google:65 億人の訪問者
- ChatGPT:5 億 6600 万人の訪問者
Google の圧倒的なシェアは変わりませんが、ChatGPT の利用者は増加しています。
Google は広範なユーザー層を持つ一方で、ChatGPT のユーザーは技術志向・教育関連の割合が高い傾向にありました。
主要ポイントまとめ
- ChatGPT の検索影響力は拡大中で、3 万以上のドメインにトラフィックを送客
- ChatGPT のクエリの 70% は、従来の検索エンジンにはなかった新しい検索意図を含む
- 検索機能 ON では Google 検索に近い行動が ChatGPT にも見られ、OFF では長く詳細なクエリが特徴的
- 教育・研究・技術関連のサイトが ChatGPT 経由のトラフィック増加の恩恵を受けている
- 生成 AI の普及を見据えた SEO 戦略は AI 主導の検索に適応し、構造化コンテンツ、ブランド言及、会話型最適化が重要になりそう
Semrush の調査から見えてきた変化は、オンライン検索の根本的なシフトを示しています。
AI 時代に適したデジタルマーケティング戦略を再構築する必要があるでしょう。