[レベル: 中級]
この記事では、英ブライトンで先月末に参加した BrightonSEO 2018 September のキーノートスピーチをレポートします。
スピーカーは、SparkToro の CEO、Rand Fishkin(ランド・フィッシュキン)氏です。
強調スニペットやナレッジパネル、ローカルリスティングに象徴されるように、現在の SEO は競合サイトだけではなく Google とも僕たちは争わなければなりません。
Fishkin 氏は、将来の SEO に勝利するためのヒントは “検索結果の中” にあると考えています。
検索結果の中にある SEO とは一体どういったものなのでしょうか?
※鈴木注: 具体例は日本向けに一部アレンジしています。
Google との契約
Google と我々(サイト管理者)はある種の契約を結んできた――我々は無料で Google にサイトを検索結果で提供している。Google が定めるルールに従っている。世界中の情報を整理するというGoogle の理念に協力している。その見返りとして、Google 検索からのトラフィックを得ている。
この契約は最悪に転じてきた。
Google のことを疑う人もいた。しかしユーザーのためにあらゆることを Google はやっていると Google のことを私は信じてきた。だが、その信条はここ数年で変化してきた。
Yahoo! や MSN などほかの検索エンジンと競っていたころとは違い、現在は Google が市場を独占している(90 % のシェア)。したがって Google は自分たちが好きなようにできる。
人々は Google を盲目的に信頼している。Google と Bing の検索結果を入れ替えた実験を行った人がいた。Google のデザインの検索結果ページに Bing の検索結果を表示し、Bing のデザインの検索結果ページに Google の検索結果を表示させた。ユーザーは、実際には Bing の検索結果なのにもかかわらず、Google のロゴが入った検索結果のほうが良いと判断した。
つまり、ユーザーが Google を利用をやめる状況ではすでになくなっている。
Google の悪行
jumpshot の調査データによれば、2015 年から 2017 年 10 月までは、オーガニック検索のクリック数と検索連動広告のクリック数は多少の変動こそあれ、ほぼ一定だった。しかし、2017 年 11 月に状況は一変した
理由は、モバイル検索での強調スニペットやナレッジパネルだ。これらは検索結果の上に表示される。
2016 年 2 月における PC 検索の CTR
- 検索連動広告: 3.82 %
- オーガニック検索: 65.72 %
- どれもクリックしない: 34.28 %
2018 年 2 月における モバイル検索の CTR
- 検索連動広告: 3.12 %
- オーガニック検索: 38.97 %
- どれもクリックしない: 61.03 %
※鈴木補足: 米 Google (google.com) における調査データ
2016 年と比較すると 2018 年は、モバイル検索のオーガニック検索の CTR は 20 %も減少している。反対に、どれもクリックしない検索がその分増えている。
Google 検索全体の CTR
- オーガニック検索: 52.96 %
- 検索連動広告: 3.49 %
- どれもクリックしない: 47.04 %
- 検索連動広告 1 クリックごとに 15 以上のオーガニック検索のクリック
- 1 年前と比べてオーガニック検索の CTR は 20 % 以上減っている
- 10 回のオーガニック検索のクリックに対して、8.8 回はどれもクリックしない
変化が起きた現状
こうした変化には次のような傾向が見られる。
- PC 検索よりもモバイル検索でより多く起きている
- ロングテールよりも、頻繁に検索されるクエリで起きている
- Informational(情報収集型)クエリと Transactional(取引型)クエリでほぼ等しく起きている
ローカル検索結果で特によく見られる。
ローカルリスティングをクリックしても、サイトには行かずに Google マップ(Google マイビジネス)のビジネス情報が表示される。
動画検索では YouTube 動画ばかりが検索結果に出てくる。
天気予報の下の検索結果は CTR が 30 %下がる。
航空会社をクエリに含めても、フライト検索の結果がその航空会社のページよりも上に出てくる。
※「ロンドン航空券 ANA」の検索結果
スポーツの試合結果やホテル検索、有名人の検索結果などさまざまなジャンルで検索結果のトップに自分たちの作ったアセットを Google は掲載している。
Google は市場を独占している力を乱用しているように思える。
Luke Cage(ルーク・ケイジ、英国の俳優)が出演している映画を Netflix で見たいと思い “Luke Cage” で検索すると、6スクリーン分スクロールしてやっと出てくる。そこまでは Google が作った検索アセットが表示される。
Google だけではない
オーガニックリーチ(自社サイトから外部サイトへのアクセス)を防ぐ傾向にあるのは Google だけではない。Facebook や Instagram も同じ。Facebook からのトラフィックは年々減少しているし、Instagram は外部リンクできないようにしている。
Twitter や LinkedIn は外部リンクがない投稿を優先表示しようとしている。
YouTube は、説明文の表示範囲を小さくし、外部サイトへのリンクがデフォルトでは見えないようにした(「もっと見る」で展開する必要あり)。
音声検索もサイトへのトラフィックが減る要因だ。
現代のマーケッターにとっての2つの相反する真実
- ウェブのメジャープレイヤー(Google や Facebook などプラットフォームを提供する大手企業)からオーガニックトラフィックを獲得するのはかつてないほど難しくなってきている。
- 一方で、ウェブサイト(とメールリスト)をキャンペーンの中心に据えることがかつてないほどに重要になっている。
昔は、どんなに小さなビジネスであっても、Google や Facebook からアクセスを獲得できた。Google や Facebook は協力的だった。しかしもはやそういった時代は終わった。可能な限り自分のプロパティを所有しなければならない。
どのように対応すべきか?
- 少なかったとしても、Google(やほかのプラットフォーム)が依然として送ってくれるすべてのトラフィックを最大限に利用する――オーガニック検索のトラフィックを最優先し、予算をつぎ込むべき。そうすればオーガニック検索からのトラフィック獲得がさらに困難になったとしても、競合の先を行ける。
- キーワード調査ツールで CTR を見積もる――競合とバッティングしない、ロングテールキーワードを軸にしたコンテンツマーケティングにシフトする。起業したばかりの SparkToro では以前ほどには頻繁にブログを書かなくなった。その分のリソースをツール開発に回している(そのほうが、顧客を獲得できるから?)
- ブランディング構築に賭けてみる――ブランドを構築し、そのブランドでの検索を増やせば、ブランドに関連した Google のアセットが検索結果に多く表示されるようになることが期待できる。ブランド検索だけは Google は防ぐことはできない。Google 検索のボリュームは実際には毎年増えている。ブランド検索からのトラフィックは増やすことができる。
“On-SERP SEO”(検索結果上の SEO)への投資
1. 自分のブランドが検索結果でどのように表示されるかをコントロールする
※“rand fishkin” の検索結果
2. Google が、YouTube や Google マップ、画像検索を優遇しているのであれば、そのプラットフォームに掲載されるコンテンツを作る
3. 検索結果でのまとめコンテンツを Google が作るのであれば、それに含まれるようにする。また、その下に掲載されるサイトに影響を与える
※オーガニック検索に出ているトリップアドバイザーと BRITISH MADE というサイトのコンテンツで引用されたり言及されたりするようなコンテンツを作る
4. 強調スニペットを獲得できているのであれば、クリックを増やすチャンス
※ほかにもあるお米の品種を見るためにユーザーはクリックしてサイトに訪問する。この強調スニペットだけでは、欲しい情報がすべて手に入らないから。
5. 他のサイトが上位表示していて、どうしても自サイトが上位表示できないときは “フジツボ作戦”を使う
※「赤坂 お寿司 ランチ」のオーガニック検索上位。寿司屋の一店舗がここに食い込むのはほぼ不可能。ならば、食べログや Retty、ぐるなびのサイトの中で目立つ場所に掲載されるようにする。このほか、上位表示のサイトが寄稿を受け付けている場合もある。
結論
いろいろなことを話してきたが、私は、短期視点では悲観的に見ていても、長期視点では楽観的に見ている。オーガニック検索のマーケティングには常にチャンスが眠っている。
賢く投資すれば、大きすぎるくらいの成果を手にできる。SEO はこの先まだ 10 年(もしくはそれ以上に)は決定的に重要なスキルである。難しければ難しいほど、絶好の機会になる。
以上です。
SEO を取り巻く環境は決してやさしいものではありません。
しかしながら、Fishkin 氏はそんな厳しい状況こそがチャンスだととらえています。
「SEO オワタ」ではなく、SEO にさらに投資すべきだというのが彼の主張です。
どんふうに SEO に投資するかが僕たちに与えられた課題になります。
このレポート記事が、あなたの今後の SEO の方向性を決める手助けになれば幸いです。
ランドは、創設した Moz をなかば追い出されるようにして、SparkToro を新たにスタートさせました。
「新しいビジネスはどう?」と聞くと、順調にいってるよといつも増してエネルギーに満ちあふれた表情で答えが返ってきました。
ランドのような前向きな意思も僕たちには必要ですね。